胃がんは胃炎や萎縮(いしゅく)をおこしている胃の粘膜から発生すると考えられています。胃の粘膜に萎縮がおこると萎縮性胃炎の状態になり、その後腸粘膜に置き換わる「腸上皮化生」が発生し、胃がんへと進展していく流れが明らかとなっています。最近になってこの変化にヘリコバクター・ピロリという細菌が大きく関わっていることが判明しました。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染した状態が続くと、長期にわたり胃粘膜に炎症が起こり、これが加齢とともに萎縮性胃炎、腸上皮化生をもたらすと考えられています。ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌すると、萎縮や胃炎が改善し、その結果、胃潰瘍、十二指腸潰瘍のほか胃がんの発生も抑えられることがわかってきました。
    近年、わが国では検診などの普及による早期発見、早期治療の効果がみられ胃がんの罹患率は緩やかな減少傾向にあるのに対し、死亡率は急激に減少しています。
症例      
症例1

病変部
症例2

色素をかけより病変を
見やすくしたもの
症例3

色素をかけた後の病変部
症例4

組織を採取している所
→検査の結果早期胃がんと判明
原因 胃がんは内視鏡検査やX線検査による肉眼的所見による分類を行います。

基本的に表在型(0型)、腫瘤(しゅりゅう)型(1型)、潰瘍限局型(2型)、
潰瘍浸潤(しんじゅん)型(3型)、びまん浸潤型(4型)分類不能(5型)の6つに分類されます。


症状


進行がんは明らかに隆起している腫瘤型(1型)、潰瘍を形成し正常組織と境界がはっきりした潰瘍限局型(2型)、潰瘍を形成し周囲に浸潤していく潰瘍浸潤型(3型)、びまん浸潤型(4型)に分けられます。スキルス胃がんは、若年者に多く進行の早いがんで4型に属します。

 
分類 胃壁は内側から粘膜層、粘膜筋板、粘膜下層、(固有)筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜の6層により構成されています。粘膜から発生した胃がんは、しだいに胃壁の上下方向、水平方向に増殖し、拡がっていきます。がんが胃壁の下にどこまで浸潤しているかを示したものが「胃壁深達度」です。この深達度によりリンパ節転移率が異なることから、深達度はその後の治療法の選択にとって重要な要素となっています。

深達度での5分類

胃がんは深達度によって早期がんと進行がんに分けられ、がんが粘膜下層にとどまっているものを早期胃がんといいます。早期胃がんのなかでも、粘膜内にとどまっているものを粘膜内がん、下の層まで浸潤しているものを粘膜下層がんといいます。一方、がんが固有筋層以下にまで進んでいるものはすべて進行がんといいます。
注意点 切除した胃がんの断片からがんを顕微鏡で観察し、
組織学的に分類することでがんの性質を分類します。


胃がんは胃液を分泌する粘膜から発生するがんであり、
ほとんどすべて腺管構造に似た腺がんです。
原因 がんの特徴として転移がありますが、
転移にはリンパ節転移、血行性転移、腹膜転移などがあります。
 

リンパ節転移:

リンパ節転移は、がん細胞が発生した部位からリンパの流れにのってリンパ節にたどりつき、そこで増殖することをいいます。次々とリンパ節に移動し、増殖することを繰り返していくと考えられています。そのため、がんの病巣を切除する際には広域にできるかぎりのリンパ節を切除することが、再発を防ぐために非常に重要です。

リンパ移転の仕組み

血行性転移:

血液の流れにのって、他の臓器へたどり着き、そこで増殖することを血行性転移といいます。転移する臓器は血液の流れに関係しています。

血行性転移の仕組み

腹膜転移:

腹膜転移は、がん細胞が腹腔内にちらばることです。多量の蛋白を含んだ腹水がたまり、がん細胞が浮遊した状態になります。

腹膜転移の仕組み
肝臓に注意深く観察を
注意点 内視鏡による治療法

内視鏡による治療法として一般的に行われている治療法は病変のある粘膜を切除する方法です。内視鏡による治療は、開腹手術に比べて切除部位が小さく、出血や痛みも少ないため患者さんにとって負担が少ないことが大きなメリットです。切除した部分は取り出し、組織を調べ、場合によっては追加切除を行いがんの病巣を完全に切除します。一方、内視鏡治療には出血、穿孔のリスクがあるため、慎重な操作が求められます。

ポリペクトミー
隆起(りゅうき)した病変にはポリペクトミーといって、高周波スネアとよばれる金属の輪の中にがんを取り込み、しばり、通電することにより切除します。

深達度での5分類

 

内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection):EMR
隆起していない病変、表面型の腫瘍にも内視鏡による切除を可能にした方法です。粘膜下層に生理食塩水などを注入することにより、病巣を固有筋層から浮かせて高周波を用いて切り取る方法です。

内視鏡的粘膜切除術

内視鏡的治療が適応する胃がんは、悪性度の低い高分化型腺がんで、粘膜までに限られた早期がんのみです。このレベルのがんは、リンパ節転移をしている可能性が極めて低いためです。
また、手術時間も20~30分、回復までの期間は約1週間とかなり短いため、社会復帰も一般に早いと言われています。
しかし、完全に切除したとされる場合でも、手術後は定期的に胃内視鏡検査を行い、再発していないかどうか検査する必要があります。


手術による治療

手術を行うにあたり、まず病状を把握します。がん細胞は胃壁だけでなくリンパ節や血管を通して転移する可能性があるため、病巣と胃の近くのリンパ節や浸潤した臓器をできるかぎり取り除きます。がんの拡がりの程度や深達度(どのくらい深く進行しているか)、そしてリンパ節への転移や肝臓、小腸などの臓器への転移を十分調べたうえで、最適な手術を決めます。


化学療法による治療

胃がんを完全に克服する治療法は、早期発見と共にがんを完全に取り去る手術が基本です。化学療法は、この手術の治療をさらに確実にするために行われる補助的治療法です。手術不能な場合、手術で取りきれなかったがん細胞を死滅させる場合、そして、手術前に少しでもがんの大きさを小さくして手術に臨む場合など様々な目的で行います。


注意点 胃がんの明らかな原因の1つに塩分摂取がありますが、リスク増加要因としては、ほかに米飯多食、熱い食べ物、飲み物、不規則な食事なども言われています。一方、胃がんの予防に有効な食生活として、牛乳、乳製品、生野菜、果物などを摂ることがすすめられています。
日常生活で心がけることとして過度の飲酒、喫煙、肉や魚などの動物性たんぱく質のこげ、カビなどはなるべく摂取しないなどがあげられます。また、緑黄色野菜、緑茶、ビタミンCを積極的にとることががんの発生を抑えるともいわれています。また、2次的予防として検診があります。

食事や生活上の注意